ユトリーヌの東方同人備忘録

幻想をわすれえぬものにする為に…

凋叶棕合同「幻想物語寄稿集-金-」

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   どうも、ユトリーヌです。今回は凋叶棕楽曲によって幻想に誘われた作家の方々による三次創作合同小説第二弾「幻想物語寄稿集-金-」の備忘録を綴っていこうと思う。

 

   この小説、あくまで三次創作であるからして今までは凋叶棕が描く幻想に特にはまってしまった者だけが読むといったものだったのだが、c94新譜「逆」の出現によって全凋叶棕クラスタ必読の書と化した。この本を読んでいないと曲の解釈が困難であるのだ。それについても触れよう。

 

 前作「幻想物語寄稿集」の感想記事はこっち

 


 

 

 

 

 

 

 

   以下ネタバレ

 

 

 

 

 

 

 

タイトルについて

   最初にタイトルについて。凋叶棕の初ボーカル曲にして原点「幻想浪漫綺行」が意識されたものになっている。また前回に加えて「-金-」となっているのは魔理沙の髪や星々、鈴仙の眺める円なる月、針妙丸の“正義の味方”の源泉打ち出の小槌、プレイヤーたる私達のInsertされたCoin(s)等々、金色のシンボルが多く散りばめられた本だからなのではないかと。

 

 

「to boldly go」

原曲:スターシーカー

著:みずなみ  絵:水ノ依ぱぴ子

 

   悩まされていた“未術な魔法使いには読めない”仕掛けをアリスに助言された事がきっかけで、自信を失った魔理沙。自虐の言葉を口にする彼女に霊夢は「魔理沙らしさ」を説いて元気付ける。

   魔法の研究を始めて最初にノートに綴った言葉“Look at the sky. What a starry night.”  こんな言葉を思い出すのも隣に霊夢がいるからなのかもしれない。少しだけ二人で星を見上げて一息ついたのなら、また進んでいける。そんな気がした。

 

 

   凋叶棕のせいでレイマリに目覚めてしまった人々は少なくないという(私もその一人なのだが)。天才であり博麗の巫女であるが故に思考や行動が受動的な霊夢。確固たる夢を持ち、それに向かってどこまでも能動的に進み続ける魔理沙。正反対な二人だからこそ、互いに向ける思いは眩しく輝いていて…。

  スターシーカーにスターゲイザーのテイストを少し加えた、熱いレイマリだった。

 

 

「実録!人形の館  被害者の男が語るには・・・」

原曲:怪奇!人形の館  迷い込んだ男の運命は・・・

著:五十嵐月夜  絵:紗倉澪

 

   終電が危うくなり、森を突っ切って駅までショートカットを図ろうとしたサラリーマンの男。気づけば迷子、東京都内であるのにスマホは電波圏外で現在地もわからない。大雨の中歩き回っていると、現れたのは塔のくっついた洋風の建物。男は中に入って夜を越えようとするも、ドアが勝手に締まって閉じ込められてしまう。

   ケケケという笑い声、何もない所から落ちてきた人形、不気味なそれらを尻目に住人を探す男。寝室に辿り着くとそこには、ブロンドの髪をした等身大の美しい人形の姿。好奇心でそれに触れようとした途端、人形の群れに襲いかかられてしまう。玄関の開かない扉まで追い詰められた男は意識を落とす…

   という話をアリスの家にて本人に聞かされた魔理沙。ここが幻想郷である以上、彼女は男をどうにかしてやることはできなかった。男が知らない地名を口にした時点で、彼の命は命ではなかったのだから…。自分は人間、アリスは魔法使いである事を再認識した魔理沙は、人形となった男を後ろに博麗神社へと飛ぶ。人間同士親睦を深めておくために。

 

 

   この曲はインストであるにも関わらず、効果音や切迫した音楽でストーリーがありありと思い浮かぶ。こうやって文にして書き起こしてくれると、これからまた曲を聞いた時に更に鮮やかに情景が浮かぶのだろうなっていう。ただ男が恐れおののいているだけでなく“ああ、伝わりはしたのか……。”という違った感情が描写されているのはさすが五十嵐月夜さんと思った。

 

 

「眼差しは地に咲く華となり」

原曲:Cruel CRuEL

著:満足ひろpon  絵:夜な子

 

   月からの侵略について調査していたはずが、気がつけば一面の紅い華の海の中にいた鈴仙・優曇華院・イナバ。「弾幕ごっこ」では済まないかもしれないという緊張感の中歩き回る鈴仙。未だ月の仲間たちへの罪悪感を背負い続ける彼女に幻想少女たちは語りかけていく。

  自らの率いる小隊が記憶の通りに壊滅するのを目の当たりにした鈴仙を、昔の自分“レイセン”が追い詰めていく。額に銃を突きつけられて、これで裁いてもらえると安心感を覚えてしまった鈴仙レイセンは告げる。「命の意味を見つけ出せていない。そう、貴女は少し自分勝手すぎる」と。

      地上に逃げ延びてきたのもつかの間、落とし穴にはまってしまう鈴仙。穴の外から手を差し伸べながら因幡てゐは語りかける「他の誰でもないあんたが、自分の意思で明日を決めるんだ。私はただ、幸せを願うのみ」。その手を取った鈴仙蓬莱山輝夜は語る「ちょっと羨ましいのよ?私や永琳は過去を捨てちゃったから」

   彼女たちの声を受けて鈴仙は決意する、無かったことになんてしないと。そうしてスペル《審判「浄頗梨審判-レイセン-》を打ち破った鈴仙四季映姫・ヤマザナドゥは激励する。

   武装した玉兎に囲まれた鈴仙。彼女は相手を殺せない銃を手に「弾幕ごっこ」を始めるのだった。

 

 

   心情表現が見事。レイセンとの会話で滲み出る罪悪感を優曇華の華が生々しく象徴してくれている。「貴女を幸せにするために」を意識したてゐとの会話は非常に熱い。序盤の「ためらいなく撃て」の伏線を最後の弾幕ごっこシーンで回収していくのはテンションが上がった。

 

 

「いつかあなたと旅をするために、私がしなくてはいけないたったひとつの重要なこと」

原曲:ホンノタビビト

著:涼名  絵:沙倉澪

 

      大図書館の扉が音を立てて開く

 

   騒々しく図書館に入ってきた魔理沙に悪態を吐くパチュリー。話を変えようと魔理沙が本を手に取ったことから、2人の穏やかな語らいは始まる。

   基本の“魔道書” 『図書館と魔女』というタイトルの“童話” 虚偽を楽しむ“新聞紙” 笑顔の絶えない姉妹を描いたフラン作の“絵本” 淡々と綴られた“年代記” 信用の上に気付きあげられた“学術論文”  そして“料理書”。パチュリーが自ら淹れた紅茶は普通に美味しかった。

   たまには外に出ようと思わないのか?と言う魔理沙パチュリーは答える。「私は“旅”をしている。世界中の知識が集まるここで、世界の全てを体験しているのだ」と。そんな彼女に魔理沙「本の旅もいいけれど、実際に外に出ないと分からないことも沢山あるぜ! だから、今度は私と一緒に本当の“旅”をしよう!」 

   新しい旅の始まりは、貴方に差し出すこの紅茶と供にーーー

 

   魔理沙の立ち去った図書館の中で、パチュリーは先程の童話の続きを口にする。『図書館は“呪い”によって魔女を閉じ込め、その力を食べて“生きている”』だから、今は旅をすることは出来ない。

   大図書館は語りかけてくる、あの星の魔女を“次”にすればいいじゃないかと。パチュリーはその提案を払いのける。「私はね、あの子と二人で“旅”がしたいのよ」 どうせいつか“次”は現れると言い残して気配を消す方法がある大図書館。パチュリーは“知識”を持って“呪い”を打破ると、自らの名と太陽の魔女に誓うのだった…

 

      大図書館の扉が音を立てて閉じた

 

 

 

   前半の穏やかな時間。一つ一つの本を通じた会話に味がある。「薦」を聴いている者であれば、『図書館と魔女』の時点で察してしまったのではないだろうか。特に絵本と学術論文は二人の思いや信念を感じ取ることができて好きだ。

   後半、太陽の魔女ヴワルと月の魔女パチュリーの間にあった出来事は本当に気になるよね。「R.I.P.」を聞いてると、はなだひょう先生が本の形にしてくれるのが待ち遠しくなってしまう。いつの日か魔理沙パチュリーが外へ旅に出る事を願いたいと思う。

 

 

「名付けられた幻想」

原曲:she’s purity

著:浅木原忍  絵:夜な子

 

   “彼女”に名前をつけた者たちの辿った歴史が綴られていく。

   戦争で最愛の娘を亡くした人形師は世紀の傑作と言えるビスクドールを作り上げた。娘と同じく【リゼッテ】と名付けたその人形に、彼は一生愛を注ぎ続けた。

   革命の指導者の娘が斬殺されたその時、胸に抱かれていた“彼女”。植民地支配の象徴となった“彼女”は、【メイベル】として革命家たちの精神的支柱となった。

   心を奪われた商人に不幸をもたらしたのもつかの間、貴族の娘の妹【ドロシー】となった“彼女”。やがて人形遊びを卒業した娘は19歳の夏、毒物による中毒死体として森の中で発見されるのだった。

   内気な少女の初めての親友になった【メアリー】。それをきっかけに少女は生身の友達を増やしていく、少女が誘拐され遺体となって発見されるまで。犯人は服毒自殺を遂げ、少女の父に怒りをぶつけられた【メアリー】は首だけになった。

   ひとりの女性が“彼女”の頭部を見つけて恋に落ちる。女性は自ら身体を作り上げて頭部のつなぎ合わせ、人形を【アリス】と名付けた。強い恋心は“彼女”を“私”たらしめた。二人だけの王国。二人だけの砂鉄の国。私を抱いて鈴蘭畑へと向かった彼女は、やがて毒に埋もれて動かなくなった。

   名前を呼んでくれない彼女を前にして“私”は気づいた。名付けられた幻想は、どこまでも幻想でしかないのだと。  

   そうして“私”の体は動き出す。

 

 

   まさかshe’s purityを砂鉄の国のアリスと関連付けてくるとは思わなかった。このアイデアもそうだし、第三者視点で描かれた年代記風の文章は、ミステリー作家である浅木原忍さんならではといったところ。

   人形であるが故に、他人の“名前”というエゴを押し付けられ続けた彼女が抱いた感情。メタ的視点で言ってしまえば、幻想少女たちに勝手なイメージを描く私達読み手にだって、そんな感情が向けられているのかもしれない。

   蛇足だが、あとがきで笑いをこらえきれなかったよ。うん。

 

 

「早苗と紙芝居とロープウェイ」

原曲:アイ・リトル・ヒーロー

著者:はーしぇん  絵:松本文

 

   自身の経験をもとに作った浪曲『置き捨て小傘怨み節』の初お披露目の帰り、子供にそっぽを向かれた事にもやもやしている小傘。家に入るとそこには早苗がいた。事態に感づいた上に、もう子供に浪曲は通じない事を正論立てて突きつけて来た彼女は、小傘に紙芝居をやる事を提案する。

   ロープウェイで気軽に行ける様になった守矢神社で、子守りを兼ねて披露するとの事。内容まですでに作成済みで、小傘に断らせる気は無かったようだ。タイトルは『アイ・リトル・ヒーロー』  小さな町を守るヒーロー「サナエ」が怪人「コガーサ」から町を守る王道ストーリー。登場人物のモデルに文句はありながらも、早苗の語り口も相まって思わず拍手をしてしまう出来だった。

   六日後、徹夜で準備を終えた二人は子供達を集め始める。その中には眼鏡をかけた女子高生の姿も。期待が高まる中、二人は物語の扉を開くのだった。紙芝居の、はじまり、はじまり〜〜。

 

 

   わちき可愛いよわちき。私は正直紙芝居よりも浪曲を聴きに行きたいです。安定の早苗節もさすがといったところ。

   あとがきにて、はーしぇんさんの「置き捨て小傘怨み節」「At least one word」を“本人の過去というよりは脚色された物語みたい”という感想は面白いと思った。「置き捨て(ry」は浪曲用に作られたものだとして、「At least(ry」は何のために描かれたんだろうかと妄想が捗る。早苗の過去を脚色した物語なんて、読んで意味があるのは早苗本人だけだと思うんですけど(早苗さん、外の世界では友達少なかった説信者並感)

   そして最後に“彼女”が出てきた意味なんだけど、全く思いつきません助けてください()   

 

 

「夢のまた夢」

原曲:ドリーム・アフター・ドリーム

        ハロー、マイフレンド。

著:桶住人のmist  絵:渡瀬玲

 

   新聞部を退部するために、振倉文(ふりくら あや)と新刊を捌けた部数で勝負する事になった姫野はた(ひめの はた)。 一面ネタを探す彼女は友達の多そうなクラスメイト、霧雨リサに取材を試みるも一蹴されてしまう。交渉の余地もなし。そこではたは放課後、リサを尾ける事にした。しかし毎日渋谷駅で降りるリサ人混みに紛れていなくなったり視線を外した一瞬で姿を消したり…

   五日目。学校でリサに尾行がバレてしまうも、なんとか話を聞ける約束を取り付けるはた。その日の放課後、渋谷のスクランブル交差点を上から覗ける喫茶店でリサは話し始めるのだった。

   学校で話す友達とはどこか打ち解けられない様な気がして、放課後一人で渋谷を散策するのを楽しんでいた。めぼしいところを周り尽くしてしまってからは“遠い場所に行ってみたい”と思っていた。ある日ふと空を見上げると、紅白の服を着た巫女みたいな少女が視界に映ったのだ。その日から私は一人じゃなくなった。彼女と一緒に飛んで、駆けて、遊んで…。そんな夢を見ている間、彼女は私の友達なのだと。

   あまりにも突飛な話を、正直信じられないはた。しかし見下ろした車の行き交う交差点に、白い傘に紫色のワンピースを着た金髪の女性が佇んでいるのを見てしまった彼女は、話を笑い飛ばすこともできないと思ったのだった。

   締め切り当日。目が覚めて原稿を読み返すと中身が丸っきり変わっていて、そこにリサの話の内容は入っていなかった。そのまま領布会に新聞を持って行くも捌けた部数は上々。文に新聞部を辞めないことを伝えたはたはリサに声をかけられる。

   私の話をなんで書かなかったんだ?と問う彼女にはたは答えるのだった。「あなたの世界(ゆめ)はあなたのもの、でしょう?」 リサは一言、そっかと笑顔で返してくれた。

 

 

   要約が長くなってしまったこの話。それもそのはず、短い文章の中にいくつもの印象的な描写が組み込まれているのだ。一瞬でハチ公前から姿を消したリサ、リサが見かけた紅白の巫女、はたの目にだけ映った妖しい女性の姿、そして消え去った文章。前作で「幻想の旅人」を書いた桶住人のmistさんの、想像力を刺激させる文体は健在といったところだろうか。

   タイトル的には、幻想少女の見る夢の世界での話なのかなって思う。その中で起きる夢紛いの出来事達を描いた“夢のまた夢”?  でも「喩」自体が霧島リサの夢の話… ん?こんがらがってきたぞ?

   この話もそのうち色々考えて解釈を綴りたい。読んでいる間、私もトモダチと呼ばせて頂きました。

 

 

「正義の味方」

原曲:輝針「セイギノミカタ」

著:とものは  絵:とってつき 

 

   問題の作品。c94新譜「逆」に逆輸入されている。そちらの考察記事で詳しく紹介してるので、ここでは省略。web検索に引っかからない“とものは” “とってつき ”両先生の正体にも言及している。

 

 

 

「刻まれた物語」

原曲:ハロー!フォゴットン・ワールド

        忘れえぬ物語

著:みの  絵:水ノ依ぱぴ子

 

   高らかに叫ぶ声が聞こえた。空を見上げるとそこに浮かんでいたのは、七色の水滴を撒き散らす、傘を持った少女の姿。それがあの時の巫女の無慈悲で過激な舞に重なって見えたボクは確信した。捨て去ったはずの、嘘つきの楽園に戻ってきてしまったのだと。化傘であるという彼女をうまいこと言いくるめ、ボクは森の洋館まで案内してもらうことにした。

   大雨の中、相合傘をして歩く二人。化傘はまるで惚れ薬を使われたような顔で、火に焦がされているような赤い目をして囁く。あなたとは初めてあった気がしない、貴方に傘として使われて嬉しいのだと。“大人の味は油断大敵”と警戒を強めたボクに、化傘はあっけらかんと冗談だと言う。不快でしょうがないのに、ボクは傘を手放すことが出来ないでいる。

   自分の生い立ちを語り始めた化傘。千里も続く恋路の果てに、忘れ去られてしまったという事実を知った彼女。怨恨を抱いてたどり着いた場所(はかば)こそが忘れ物の楽園(Forgotten World)、幻想郷だった。ここで生きたものは皆記録され、記憶され、絶対に残り続ける楽園なのだと。 勢いを増す雨の中、たどり着いたのはかつて正直者達が住みかとしていた洋館だった。

   館に上がったボクに化傘は言う。「捨てられた雨傘と捨てられた洋館、忘れ物同士分かるものは分かる。お帰りなさいって、この館が言ってるわ」  逃げなければ、そう直感した。窓から飛び出して出た場所、そこは七つの墓標が並ぶ庭。追いついてきた化傘は日に焦がされた赤い目をしていた。それは捨てることを決して許さない目、捨てたものを決して忘れない目、見つめ返して欲しくなかった、そんな目だった。

   手拍子が聞こえる。ボクの意思とは裏腹に、朝はそちらへ向かう。楽園がボクを連れ戻しにきたのだと気づいた。

   呼び声が聞こえる。ボクの瞳に刻まれた光景を消し切るには、この幻想郷は美しすぎた。

   拍手が聞こえる。ボクを歓迎しているような暖かいリズム。それを嘘だと悪態づくも、全ては無意味。七色に染まった手に抱かれたボクの耳に鐘の音が響く。最後に聞こえたのは初めて囁き声だった。「おかえり、楽園へ!(Hello! Forgotten world.)」

   最も美しいボクが最も美しくあるためには、最も美しい楽園にはいられなかった。両方がそうあり続けるためには“ひとつになる”しかなかった。そうして全部、元通りになった。

 

   レコードが止まり、稗田は思索を止める。その少女を稗田は知っていた。悪夢であろうと、呪われた歴史であろうと、幻想郷は全てを記憶する。再びこの地を踏んだ彼女の、素晴らしい新たな生に想いを馳せる。少女へ祝福を込めて、幻想郷の記憶は呟くのだった。「おかえり、幻想郷へ」

 

 

   要約が長いぃ、カットできる場所が一つもない密度の高い物語だ。楽園に連れ戻されてしまったボク、捨てられたものたちの代弁者たる小傘、世界の記憶である阿求、そして残酷なほどに美しい幻想郷自身。 皆が皆超常的というか、神話的なものを感じる。

   私の全凋叶棕曲の中での1.2を争う好きな歌詞が「somewhat trustworthy」の『ああなぜなら 美しいから』だったりする。この幻想郷の圧倒的な美しさがそこで起こる全ての事象の結論となってしまう、云うなればデウスエクスマキナのような絶対性がとても好きなのだ。だからこそ“最も美しいボク”でいられなかった彼女にも底知れない魅力を感じるし、“ひとつになった”彼女を少し羨ましいとも感じてしまう。

 

 

「コインの行方 〜Whereabouts of coin(s)」

原曲:Insert Coin(s)

著:卯月秋千  絵:松本文

 

   短い思い出話を、許して欲しい。

 

   さあ、その手を此処へ。Insert Coin(s)

 

 

   私が要約して書き記すべきではないのだろう。これは私自身の歩んできた道ではないから。そして綴られているのは幻想郷という世界で描かれる“物語”ではなく、“思い出”、“祈り”であるから。

   たった11ページ、そこにこれだけの思いを詰められるのかと驚くばかりだ。この作品に関しては、読んだプレイヤー一人一人が感じたものに私の駄文で干渉してしまうことのないようにするべきだと思うから、あまり多くは語らないようにする。

   ただ私も鈴の音を繋ぎたいと、そう感じたとだけ書き記しておきたい。

 

 

 

 

 

 以上10作品、凋叶棕、延いては東方Projectへの深い愛が詰まった合同だった。読み終えての初感を綴ってきたが、まだまだ読み足りないというのが正直なところ。個人的には「いつかあなたと旅をするためにry)」「刻まれた物語」「コインの行方 ~ry)」がお気に入り。だが「夢のまた夢」をはじめ、ほかの作品でももっと妄想を広げたいと思う。

 また、はーしぇんさんによる原曲紹介の欄も非常に面白い。「she's pretty」の知っている人はニヤリと出来るネタなんてのにもまだ至れてないので、いろいろ調べないと。「ハロー、マイフレンド。」の紹介文大好き。

 

 

 「幻想物語寄稿集-金-」主催のはーしぇんさんをはじめ、制作にかかわったクリエイターの方々、凋叶棕主宰のRDさん、そして幻想の生みの親ZUNさんへの感謝をもって備忘録を締めたいと思う。ありがとうございました。

 

 

p.s  タイトルの「-金-」の部分、読了してブックカバーを外すまで”きん”って読むんだと思ってました恥ずい。