傾き屋「さよならマエリベリー」
どうも、ユトリーヌです。今回はc94に委託された、傾き屋さんの新刊「さよならマエリベリー」について綴っていこうと思う。
例大祭にて同サークルが領布した「ロストガールズ」が結構好きだったのもあって、今回もこのサークルさんの新刊を入手させて頂いた。
まずは著者である烏粋さんによる紹介ツイートをば。
【C94告知】1日目、秘封小説新刊出ます。東3 ナ47a「La Mort Rouge」にて委託させて戴きます。
— 烏粋/うすい@1日目 東ナ47aに居た (@suikyoh) 2018年7月29日
なぜ蓮子は彼女の本名を呼ばないのか?そして秘封倶楽部はどんな秘密を封じているのか?その謎を解けるかもしれない掌編小説です。物理本ならではの作品となっておりますので、よろしくお願いいたしますー pic.twitter.com/YBXdgSSy2x
終わらない秘封倶楽部の一つの区切りを描いた作品。何故蓮子は彼女を本名で呼ばないのか、メリーとは一体何者なのか、そして蓮子の選んだ幸せとは何なのか…
それでは感想&解釈を述べていこう。以下ネタバレ
この物語は凄まじく完成度が高いように思えた。全体の構図が非常に綺麗にまとまっているのだ。
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幻想の儚さ
読み手が最初に感じるのは“幻想の儚さ”ではないだろうか。
徐々にメリーとズレていく蓮子と、悲しそうに蓮子を諭すおばあちゃんの存在、そして読者に突きつけられるギミック…
最後の呪文を聞き終えてそっと本を閉じ表紙のSeacret Sealを剥がすことで、彼女の名前に隠されていた秘密をその手で暴く。
こうして“マエリベリー”は始めから終わりまで“my reverie”であったということに気づく。再確認する。
暴く気づくという過程を踏むこと、それらによって読者はより“幻想”の脆さ、儚さを感じさせられてしまうのだ。
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幻想の持つ力の強さ
しかしだからこそ、読者は蓮子の強さも読み取ることができる。
蓮子はメリーが儚い“幻想”であり、現の存在ではないことに気づいてしまった。どこまでが現実なのか分からなくなり、心をすり減らした。
しかし彼女が決断したのだ、幻想が失われてしまう前に自らの手で終わらせるということを。消失への恐怖を乗り越えて、メリーとの再開へと続く道、秘封倶楽部の続きを選んだ蓮子は間違いなく強い。
そしてそんな彼女を幼少期から形作ったものは何だったか。そう、親の目を盗んではおばあちゃんに聞かせてもらった“幻想”そのものじゃないか。幻想は蓮子に確かな“強さ”を与えたのだ。
儚き幻想が生んだ消失感を幻想に形作られた強さを持った蓮子が乗り越えることによって、幻想が一緒に内包する“儚さ”と“強さ”を共に感じさせてくれる。またその両方のきっかけとなったおばあちゃんの存在も相まって、短いながらにものすごく綺麗にまとまった物語だな〜と。
やや分析的な読み方となってしまったが、物語のプロットそれ自体に魅力を感じてしまったんだからね。しょうがないね。
傾き屋さんの小説はこれからも読み続けていきたいなと思う。