ユトリーヌの東方同人備忘録

幻想をわすれえぬものにする為に…

四面楚歌「わたしはあなたを×したい」

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    どうも、ユトリーヌです。今回は四面楚歌さんが描く幻想小説わたしはあなたを×したい」について綴っていきたいと思う。

 

    まずは作品の概要をば。

 

私は貴方を殺したい/私は貴方を愛したいーー

囲われたような狭い世界で、殺意と愛情が溶けて混ざりあう

秘封倶楽部の、幻想短編集。

わたしと、あなたと、したいのおはなし。

                        四面楚歌 特設サイトより

 

 

    この小説(というより四面楚歌さんの物語全般に言えるのだが)、実物を読んでもらう以外にその歪みきった美しさを伝える手段がない。何故ならストーリー構成そのものだけでなく、世界を曖昧に仕立て上げる巧みな文章表現や、本そのものに仕掛けられたギミック(特殊装丁)により創り上げられる世界観に強い魅力があるからだ。

 

    よってここでは作品紹介というより、読んでいる前提で私の解釈を書き記しておきたいと思う。まあそもそもこのブログはあくまで“ユトリーヌの東方同人備忘録”だからね、自分勝手にやっていきたい。

 

 

 

    私が考えたいことはただ一つ、【タイトルは何か】である。

    おそらくこの作品を読んだ人の多くは「×に入る文字ってなんだろうな〜。“殺”も“愛”も“汚”も入れられるし…。うん、きっと読み手が好きな文字を入れられるように曖昧にしてるんだな。」という答えを出したのではないかと(私の友人がそうだったので…)

    もちろん間違いじゃない。著者はそう思われることを意識しているだろう。それに、そもそも「解釈」というのは“その作品と読み手がどう向き合ったのか”の表れであるので、それを否定することは自ら以外にはできないし(作者の意図と一致しているかは別として)。

    だから私はそれに付随して一つの解釈を述べるという形で綴ろうと思う。

 

 

    Twitterの方で私が挙げた文章が綺麗にまとめられたと自負しているので、そのまま載っける。

 

“善”と“悪”、“殺意”と“愛情”、“紅”と“白”、“幸福”と“不幸”、“生”と“死”、“夢”と“現”、“私”と“貴方”、そして“終わり”と“始まり”………

 

あらゆる境界を曖昧にして、どろどろにして、拒絶して……  どうしようもなく閉ざされ切り、桃色に染まった箱庭で

 


お話

            の

                              話を

 


繰り返す“わたし”と“あなた”と“したい”のおはなし。

 

何もかもが曖昧になった世界でたった一つはっきりとしている事実は、2人がどうしようもなく止まり切ってしまっているということ。

 


だからこそタイトルは

「わたしはあなたを愛したい」

でも

「わたしはあなたを殺したい」

でも

「わたしはあなたを汚したい」

でもなくて…

 

空白に当てはまる言葉を、真実を探すのではなく、さらに曖昧にしなければならない。


全てを曖昧に、ぐちゃぐちゃに、どろどろに溶かし続けた先に残った一つこそが真実なのだから。


最後の部分の左上が答えだ。

 

 

    うん、まあこれ以上言うのは野暮だと思うのだが、あえて結論を行ってしまうとタイトルは

わたし×あなた×したい

である。漢字に直すのなら「私×貴方×死体」

 

 

    この作品で描かれているのは「何もかもを曖昧にしたその果てに、唯一残った確固たる真実」である。

 

   世界を二分する紅と白の太極、その境界がドロドロに溶け混ざった桃色の箱庭。“終わり”と“始まり”すら拒絶して永遠に繰り返される楽園。その中をくるくると回り続ける独りと独りを取り巻く全ての中で、唯一曖昧になっていない事実は「どうしようもなく止まりきってしまっている」ということ。

    何も変わらない、傷つけられない、汚すこともできない彼女たちを表すのに最もふさわしい言葉こそ“したい”。

 

 

    物語のタイトルがその作品を端的に表すものであるならば、中身に準拠していなければならない。

    曖昧な「×」に文字を入れて真実を固めるのではなく、「わたしはあなたを×したい」をさらに曖昧にして、残った真実を見つめらければならないのだ。

 

 

    だからこそタイトルは「わたし×あなた×したい」  曖昧に全てを曖昧に、ぐちゃぐちゃに、ドロドロに溶かし尽くして残った真実である。

 

    

 

 

 

    人比良さんの描くこういう世界観は、数多くいる東方同人作家の中でも唯一無二の歪んだ光を放っていると思う。何か物語のジャンルに当てはめるのであれば本人の言う通り“幻想小説”と呼ぶ他ないのかなと。

 

    誰かに魅力を伝えるのが本当に難しいし、決して万人ウケするような物語では無いはず。だが一度あの鬱屈とした閉塞感に満ちた世界に魅入られてしまったが最後、心を囚えて離してくれなる。

   

    いろんな意味で他人にはオススメできない、お気に入りの作品だ。